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キアリ奇形と脊髄空洞症

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キアリ奇形(Chiari malformation)と脊髄空洞症(syringomyelia)

【はじめに】

 脊髄空洞症とは、キアリ奇形(小脳の一部が脊柱管内に落ち込んでしまっていいる状態)や脊髄腫瘍などの疾患に伴い、脊髄内に空洞(水たまり)を形成する慢性進行性の疾患です。キアリ1型奇形に伴うものが最も多く、原因の約半数を占めています。まれな疾患なため他の病気と誤診されることも多く、かなり病状が進行して初めて正しい診断にたどり着いたということも少なくありませんでした。近年MRIの普及により診断が容易になり、病状の軽いうちに治療を受けることができるようになってきました。

【臨床症状】

 腕から手にかけての痛みやしびれなどの不快感で発症する事が多く、運動麻痺が初発症状となることは多くありません。キアリ奇形に伴うものでは、せき込んだ時やトイレでいきんだ時など、腹圧がかかる動作に伴い後頭部が痛むのも特徴の一つとされています。小児期に発症した場合脊椎側弯症を合併する症例が多く、学校の検診で側弯症を指摘され、その精査中に発見されることも少なくありません。病状が進行すると、典型的には腕から手にかけての著明な筋萎縮を伴う筋力の低下と、ジャケット型の感覚障害が出現します。一般に温・痛覚は発症初期より傷害されることが多く、湯加減を見るときなどに感覚の異常に気づくことが多いようです。また、発汗障害や排尿障害など自律神経障害などを伴うこともあります。

【治療法】

 現在でも、手術療法が脊髄空洞症に対する唯一の治療法です。病状が進行してから手術を行っても、麻痺や知覚障害は完全に回復しないため、早期に診断・治療を受けることが重要です。

 手術手技1)空洞短絡術と、2)大後頭孔拡大術の2つに分けられます。 

1)空洞短絡術

 古くから行われている方法で、脊髄空洞内にチューブを挿入し、空洞内にたまった水をドレナージします。空洞―くも膜下腔シャント(SSshunt)が一般に行われています。

 シャント術は比較的簡単で有効な手術法ですが、人工のチューブを用いるため、チューブがつまったり抜け落ちたりする危険性がある上に、原因となる疾患の治療が行われないという欠点があります。

  2)大後頭孔拡大術

 頭蓋から脊柱管に移行する部分を大後頭孔と呼びます。キアリ奇形では、本来頭蓋内に収まっているはずの小脳の一部が、大後頭孔を経て脊柱管内に下垂しているため、脳脊髄液の交通が妨げられ、空洞が形成されると考えられています。このため私たちはキアリ奇形に対する根本的な治療である、「大後頭孔拡大術」を行っています。これは1)下垂した小脳により妨げられた、大後頭孔部における脳脊髄液の流れを改善することを目的としたもので、2)術後合併症の原因である脳幹部に対する操作は行いません。減圧がうまくいくと、手術中に下垂した小脳が挙上するのが観察され、空洞は術後1月ほどで縮小します。(図4、5)原因となる疾患を根本的に治療するため再発例はなく、また術後合併症が少ないのも特徴です。

 

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